2017年文学フリマDebby Pumpアワード

この一年で文学フリマに出品された作品の中から、特に優れたものを、Debby Pumpが独断により決定し表彰する賞。(※文学フリマ事務局様公式の企画ではありません)

最優秀詩歌冊子賞 選評

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『いまたべたいもののはなし』

 食事をテーマとした詩編と、関連する料理のレシピを組み合わせ一作とする試みがなされた詩集。

 言わずもがな、食事は我々の日々の営みにとって必要不可欠なものである。生きるためというものもちろんそうだが、どちらかというと本作が主題としているのは、精神にプラスの作用をもたらすものとしての食事だ。

 詩編はいずれも、どこか切ない空気を纏っているように感じた。それは例えるなら、独りで食べるために独りで料理を作ろうとするときの空腹感に近い。その空腹感は、料理を作り食べ終えてもなお、収まらないことがある。

 私は本作を読み終えて、やはり空腹感を覚えた。その作用をもたらしたのは、まぎれもなく詩編の力なのである。

 

 

『水星たちの夜』

 身体ではなく想いの良いところは、どこからどこへ跳躍してもそれを自然なものとできるところであると思っている。行き先がいかに遠くても、まったく異なる世界でも、想いだけはなんでもないことのようにひょいと移動する。

 この本はそういう、人の想いにのみ許される跳躍を実に奔放に目一杯楽しんでいる。サルトルからまぐろの目玉へ跳躍するとき、そこに案内はいらない。何故そこからそこへ跳んだのか、説明することはできないし意味はない。人の想いは、訳もなくただ跳ねまわり飛びまわる。

 その跳躍をそのまま作品にすることは難しい。しかし、この作品はあっさりとそれを実現してみせている。多くの人が思わずブレーキをかけてしまうところで、この作者は何の躊躇いもなくアクセルを踏み込むことができるのだ。

 真っ白な紙、一ページに三首ずつの短歌が並んでいる。このごくシンプルなデザインが、短歌そのものの魅力を引き立たせているように思う。

 

 

『次なる宇宙のために』

 確かな実力のある四人の詩人が、胸を張って立ち並んでいるシルエットがたしかに目に浮かんだような気がする。

 私はふだん、詩にせよ小説にせよ、いわゆるアンソロジー的なものをあまり好まない。複数の作家の魅力が響き合うということは稀で、多くの場合互いに邪魔しあっているように思う。しかし、この本は良かった。

 はじめに視野を異様なまで広げられ、徐々に焦点を絞り最後にはけつ毛というささやかなものを描くに至った本の構成が見事である。そしてそれは、示し合わされたものではなく偶然のことなのだろうと思う。それをこの形にまとめ上げたのは編者の手腕か。

 

 

『Eat on the midnight...』

 なんというか、とても自由な本である。詩編があって、小説があって、日記があって、写真があって、CDジャケットと曲名があって、Line(たぶん)のやりとりがあって……。この本を詩歌の冊子として取り上げてよいものかどうかという迷いはあったが、メインは詩編であると思いこうした。

 “夜の不思議な力をかりてぜひ、夜によんでほしいです。”と作者の言葉が記されている。この本の持つ自由さは、夜に見る夢によく似ているような気がする。言葉はどこか地に足付けておらず、ふわりと浮かびゆらゆらと遊んでいる。

 

 

【最優秀詩歌冊子賞 総評】

 ノミネート作品四作はいずれも詩歌特有の自由奔放さを申し分なく発揮しており、それぞれの個性豊かな言葉が好き放題遊んでいる。選考も楽しく行えた。

 

 当選作は、ちずぐみ(犬と南港)『水星たちの夜』とした。

 自由奔放に跳躍する人の想いを、短歌という形で実に見事に表現した手腕。そしてその非凡な跳躍力、発想力が決め手であった。